『酒を飲んでいたわけではないの巻』


あの日から「酒造り減量」という一石二鳥を思いつき
日々山野を駆け巡っておるのじゃ。
酒を造るのに必要な技術、それは工芸。
草だの丸太だのを拾い、工芸の技術をあげようと目論んでおるのよ。


「船長、質問でやんす」


なんじゃ?


「木材を作っているように見えるでがす」


木材を作っておるからのう。


「……酒と何の関係があるでやんすか?」


わしにもよく分からんが、工芸を極めるためには
丸太を割るところからコツコツとらしいんじゃな。


「……なんで黒い石とか油も拾ってるでやんすか?」


草が欲しいんじゃが、中々これといった草が見つからんのじゃ……。
草はどこでも取れると聞いたんじゃがのう……。草…草…。


「あんまり草が取れなくて船長がおかしくなったでやんす!」
「どうした?」
「ただの石を拾ってはガッツポーズしてるでやんす……」


ずーっと下向いて探し物をしとると腰が痛いのう…
あ、石発見。そーおれー。


「新米、そろそろこの船の流儀に慣れろ。
 あれは石を投げて減量運動をしているだけだ」
「まあ、そう言ってやるな。ありゃ船の流儀というより」
「うちの船長の流儀だな」
「うむ」
「慣れてしまった俺らもどうかと思う」
「うーむ(悩」


草が見つからんのう……。
海草という名の草でデッキブラシを作っては駄目かのう。
干してブラシに加工すれば、船を磨く時に海草にもどって、
拭き掃除がはかどるかもしれんのじゃがのう。
いざという時は食料にもなりそうじゃし。


あ、また重いだけで使えん石を発見。そーおれー。

『魯智深、少々悩んでみる』


こうして行けそうな新港を幾つか廻り、
マルセイユへ戻ってきたのじゃが、そのときマルセイユにいた相当人数が
フレの方々じゃったのにはびっくりしたわい。
相互が顔見知りではないようじゃったのに、
前も後ろ右も左もフレの方ばかり。


残念ながら商談に励んでおられたり、旧交を暖めておられるご様子じゃったので、
お声かけはせず敬礼したりひっそりカモメを飛ばすにとどまり、
後は光景を目に焼き付けて一人にやにやするのであった。


その後、アクセル殿と滝殿はお二人で何か依頼を果たしに遠くへ旅立っていかれ、
わしはEXILLION殿と二人旅(子分どもはおるが)。


彼が商談に励んでおらるる間、わしは現地をくまなく廻って探索じゃ。
暫くあちこちを巡っていて気付いたことがあるんじゃよ・・・。


・・・・・・。ここでもそうか・・・・・・。


「・・・旦那、なぜそんなところでSSを?」


わし、自分をちょっぴりがっちりなぽっちゃり系じゃと思っておったのじゃが、
あちこちの港で「この人はわしよりぽっちゃり系に相違あるまい!」と
隣に並んで立ってみると大抵わしより小柄なんじゃな・・・・・・。


「親分・・・? あれ? どこ行っちまったんだ? 
 いつもの存在感が周囲に感じられないが」
「親分なら厨房にさっきからこもりっぱなしだぜ」
「『酒じゃ酒じゃー』とか中から聞こえるでやんす」
「ど、どうする?」
「こういうときはそっとしとくにかぎるでやんすよ」


(続く)

『航海は中々に難しいの巻』


新港はケープほどではないが中々に遠いようで、
どれほどの糧食を持っていけば分からんかったわしは、
いつものように水だけ大量に積み込むのであった。


喜望峰行きより酷い減量にはならないっすよね」
「や、野郎ども、命がけで魚を釣って保存するでやんす」
「そんなに危険でやんすか? 親分は楽観的でがすよ?」
「他の人の倍以上ある体積が何で出来てると思ってるんだ。
 お前、さては新顔だな?」


後ろで何か言い争っとる声がするがなんじゃろうかのう。
わしの魅惑のがっちり体型は無論100%筋肉じゃよ。


わしが皆さんと楽しく有用なお話をしとる間に
子分は必死で魚を釣り、保存しとったので、
実に短く感じる旅程であった。・・・自力航海は恐ろしくて無理そうじゃが。
何が恐ろしいって、滝殿の保存技術なしというお言葉より怖いものはなかったの。
雇用条件の良い船に移るか考えておったらしき数名の子分が
どの船でも待遇はさして変わらんと思いとどまった模様。
ショックを受けておられたアクセル殿のところは
子分待遇が良さそうじゃと思ったが内緒じゃ。


船員は生かさず殺さず。


一人も欠けることなくベンガジ、ベンゲラに到着!


・・・滝提督の船が先導してくださり、子分どもが魚を釣り、
わしは船室で船長の皆さんとお話しとったので、
ここがアフリカのどの辺りなのか今ひとつ・・・・・・。
いや! 北欧よりは南でケープよりは西。それは確実じゃ!


(続く)